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2つの風がある。
吹いてくる風とスピードを出して受ける風だ。
モーターサイクルに乗るライダーもそのウエアもそれを積極的に利用する。
風と喧嘩してはダメなのだ。見えない大気の流れがもたらす恩恵を知る。
木々の葉々がやさしくゆれる。気温が上がってくると、風は雑木林でも海岸通りでもどこか甘い香りを運んでくる気がする。そう、風はこの程度が心地よい。本当にさわやかだ。
強風の中をモーターサイクルで走るのはどのライダーでも歓迎しない。南米・パタゴニアは強風が当たり前で(特に横風が酷い)旅人を苦しめるし、アメリカ・アリゾナではメキシコから渡ってくる強い横風が吹くし、横風と言えば東京湾を渡るアクアラインもとても強い。
前からの風が強いと、ロードレースのように前傾して伏せなきゃいけなくなる。横風のときもそうだ。直線でもモーターサイクルを斜めにして走らなきゃいけないし、ときおり吹く突風に備えて、いつでもニーグリップを強められるように身構えておく必要がある(フツーに斜めに走っているときは、ニーグリップはするものの、100%ではなく余力を残すのがコツだ)。いきなりフラれるから、恐怖との戦いだ。
前からの風や横風で伏せるのは、風を受ける面積を減らして重心を下げるのが目的だ。横風の中を走るのはいつもの何倍の緊張を強いられ、精神的にも肉体的にも酷く疲れる(雨が降ったらなおさらだ)。
モーターサイクルとライダーが受ける風は外からだけではなく、自ら進んで生まれるスピードの風圧もある。時速100kmは風速に直すと27m(秒速)と台風並みの強風だ。ただ、自らスピードを出して生まれる風圧は大して強さを感じないのは不思議だ。このことは風速15m/s以上のとき外に立っていたり、実走より風洞実験の方が強いと感じることでも証明していると思う。
風は良くも悪くもモーターサイクルに乗っている以上、常に存在を意識するものだ。
物理的には見えない大気の流れが何をもたらすのか。大気と戦うのか、味方に付けるのか。
ウエアでは、ウィンドブロックしたり、優れたエアロダイナミクス性をもたせたり、積極的に通気させ気化熱を利用したり、大気=空気の流れを解析し巧みに使う。2つの風はモーターサイクルのライダーとウエアにとって、自然に受け入れ、共存する存在なのだ。